近代に作られた梅の3選

現代では花見と言えば桜が有名ですが、かつては花見と言えば「梅」の花見が一般的でした。そもそもお花見は貴族が梅を観賞して楽しんでいたことが始まりで、古来の日本人は梅の華やかさや香り、梅の風景などを和歌として残しています。時代が下り、明治時代以降になると短歌として梅の話題が詠まれるようになりました。今回は明治時代以降の梅の短歌を紹介します。

①紅梅の 花にふりおける あわ雪は 水をふくみて 解けそめにけり
島木赤彦
意味:紅梅の花に降りかかっている淡雪は、水を含んで解けていき紅色に染まっていることです。
島木赤彦は明治から大正時代にかけて活躍した歌人です。アララギ派の代表歌人として知られており、見たものをリアルに描く写実主義や、対象をしっかり観賞し、的確に言語化する写生という技法が用いられています。今回の単価も梅の木にかかっている雪が解けている様子をじっくりと観察した上で描写したもので、言葉から情景が思い浮かぶように描かれています。また、結びの言葉も万葉集で登場する表現を用いており、古い表現を用いているところも特徴的ですね。

②梅が香に 人なつかしき このごろと われまづかきぬ 京へやる文
与謝野鉄幹
意味: 梅の香りに懐かしい人の気持ちがこの頃はします。私はまず京都にいるあなたの元へ送る手紙を書きました。

歌人として活躍した与謝野鉄幹。妻も歌人として活躍した与謝野晶子でした。そんな与謝野晶子と結婚する前に送った恋文とされるのがこちらの短歌です。自分が好きな梅の香りと晶子への気持ちを重ね合わせた短歌と解釈できるもので、鉄幹の憎く感じる程の演出が読み取れる短歌となっています。夫婦ともに歌人として活躍した与謝野鉄幹らしい風流心も感じますね。

③恋に病み けふ死ぬほどに いと熱きを とめにふらせ 紅梅の露  
山川登美子
意味:あなたへの強い思いによって病気になってしまい、今日死んでいくほどたいそう熱い私の気持ちを止めるために紅梅の梅雨を降らしてください。
こちらは明治時代に活躍した女性歌人である山川登美子の短歌です。こちらも強い恋心を詠んだ和歌ですが、これは先ほどの与謝野鉄幹に向けて詠まれたものです。与謝野晶子と山川登美子は歌人としてもライバル関係でしたが、恋愛面でもライバルでした。鉄幹が好きだった梅を活用して紅梅の露という表現で鉄幹を表しています。30歳の若さで夭逝した山川登美子ですが、その短歌は今も色あせず残っていますね。

梅の短歌は梅の素晴らしさを詠むだけでなく、愛する人になぞらえるものも多くあります。日本人は梅の花を重要視していたという状況を知ることができますね。